二年間で2998台のみ生産された希少価値の高い名車。もともとピックアップトラックで世界最速記録に挑戦し、時速210マイルを記録したGMCがホモロゲ取得のために開発&生産したサイクロン。世界最速のピックアップトラックとして「テスタロッサ・キラー」の異名を持つほど速かった。ちなみにこのサイクロンのSUV型がタイフーンである。
搭載されたエンジンは、シボレーアストロ用のV6OHVエンジンにギャレット製タービンとインタークーラーを組み合わせて285hpを発生させる。これに4L60型4速ATが組み合わされ(C4用)、フルタイム4WDで駆動する。当時、ゼロヨン加速13秒台(当時は相当速かった)を記録し、一躍スターダムにのし上がったスーパートラックだった。
とはいえ、このクルマがデビューしたのが1991年。取材車は92年ということで最終年型となるが、それでも22年前のクルマである。素人が今、容易に手を出すべきアメ車とは言いがたい。
「正直言って、今このクルマを手に入れようとしてもただのゴミ同然、そんなクルマが多いのではないでしょうか。当時フェラーリ・キラーとの異名を与えられましたが、20年以上の歳月を経て乗ると、当時の面影はまったくないです(笑)。このクルマがそうでした。まずタービンがダラダラでターボパンチがまったくない。たしかにターボ車だということは分かるけど、破壊力なんて微塵もないですよね」
ということで、再生した。まず基本的なフルメンテナンスを行い油脂類の交換。それに加えてサスペンション各部のリフレッシュと強化。サスを交換し、リアスタビを強化して車高を調整した。
で、懸案のエンジン。まずタービンをTD06Hに交換、スムーズすぎる加給にパンチ力を加え、いわゆるドッカンターボと言われるようなターボラグをあえて作り出した。さらにノーマルのインタークーラーをまともに作動させブローオフバルブを装備して、アクセルオフするたびに「プシュプシュ」とターボ車の醍醐味をプラス。
一昔前に国産車にターボ車がわんさか登場した時代があったが、そんな時代に行われていたターボチューンのようないじり方。そしてあえて巨大なターボラグを作って、ターボ車に乗っている実感を作りだす。
「国産車のようなよくできたターボ車というよりは、カリカリにチューンされた大パワーのターボ車という感じです。現状350hpはカタいですかね。MAXで450hpはいきます。フェラーリ・キラーとしては、フェラーリ348は余裕でF355もイケる。モデナになるとちょっとキツいかな…と言った感じですか。いずれも直線での話ですけどね(笑)」
走り出した瞬間から感じる異様な感覚。すでに20年前のアメ車ということで、じつはガチャガチャな異音騒音を覚悟していたが、さにあらず。たしかに室内はアメ車特有のプラスチッキーな意匠に囲まれていたが、しっかり整備されていた形跡が漂う。さらに小径MOMOステアリングやB&Mシフターが搭載されているチューニングカーのような走り。
普通に街中を走っている限りは、2000回転前後でトントン拍子にシフトアップするから、まあフツーのアメ車である。だが…。ちょっとアクセルに力を込めて3000回転を越えようとすると一気に狂気する。しかもそのままアクセルオンし続けるとタイヤがグリップを失ってホイールスピン。
過去に3年落ちのタイフーンに乗った経験があり、その時ですら結構楽しかった印象が残っていたのだが、今回試乗したサイクロンはまったくの別次元。もはやアメ車というよりは『マシン』といった雰囲気で、あまりの楽しさに言葉を失ってしまうほどだった。とはいえ、その楽しみが街中で味わえるのだからなお素晴らしい。その後も5度ほどターボバーンを味わわせていただいた。
「90年代に登場したアメ車たちには、現代のアメ車と比較して個性的なものが多いと思います。しかも走った時に自分の腕の中で操れる実感みたいなものが大きい。すなわち、それはとてつもなく速いクルマではないということんなんですが、それでもストリートで楽しむには十分なスピードは出ますし、アメ車らしい重低音サウンドやトルク感、さらには一瞬のパワー等が楽しめる。そういう意味でも90年代のアメ車はいまだ無視できない存在です」
たしかに90年代のアメ車を今手に入れることは、多少の労力を伴う行為かもしれない。実際に中古車の価値としては低いだろう。だが、今回の取材車のように、各部に手を入れた90年代車には現代のアメ車を遥かに越えるスタイルや楽しさがある。
あえてこの年代のアメ車に乗る価値はまだまだ高いのである。
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